陶原 葵

 陶原葵詩集『明石、時、』(2010思潮社)より

 

    球 ・ 戯

           

 

ひとがたを被り

いないひとの骨 こぶりながら*

河ぞいの土手をゆく

 

采女(うねめ)のように

衣がなびく                     

 

歩行にそって

頬のうちがわに骨が響くが

 

(舌だけが肉

 

からからと頭蓋 耳の中が鳴るけれど

この頸椎と肩にはおもすぎて

 

ときどき はずして傍らにおく

頭蓋の口に指をさしこみ

唾液にぬれた咽喉仏さまと

 

ともに河原に鎮座して

風をうけるのだが

 

はずした頭蓋は 自由な顎

かたかたと笑いながら

30センチほどの半円を描いてはずみ

花弁うかぶ水ぎわまで

 

 

いったり またもどったり

 

そばにきたら くりくり さらさら撫で 

髑髏(skull)(bone)ではない 

  (あの自在さがあったなら

 

ひと遊びののち

おおきく跳躍して

またこの肩にずしんと落ちつくまで

しばし 休息

 

そくそくとしみる季節には

もういないひとと 

ふたつ  

球 ・ 戯

 

 (髑髏はいたくない  とんがってないから

(河原ではずんでも つきささらないね

 

あそんだあとの 脈ははやくて

 

すべてのもの

乾かしてゆく

 

 

    風

 

                                   *しゃぶる