多田陽一

 多田陽一詩集『きみちゃんの湖』(2019書肆子午線)より

 

   竜が空を翔ける

 

鼻からチューブを外した日

窓の空にとけている

スプーンの縁の

白湯のふくらみ

あてがわれた唇に

雪崩れ 

滲みいり

舌でからみとられ 

 

気道と交差する

その一瞬(とき)待ちわびる 

あとひと息の距離

みつるくんの

溺れそうな口

 

目覚めの瞬きは

いつ 訪れるのだろう

病床でむせる老いた人が

食にいどみ

母の胸にすがる嬰児(みどりご)が 

初めて乳をすう

幾百万年も

継がれてきたヒトのからだの

流れの底から

 

かたく閉じられた

真一文字の唇が

みつるくんの

揺れる眼差しを静めて

 

突然 喉仏があがって

竜が空を翔ける

喉の奥の 翼のひびきを

みつるくんは驚いたように

抱きしめる