鈴木正枝

 鈴木正枝詩集『そこに月があったということに』(2016書肆子午線)より

 

    小さな叫びが

 

小さなからだに入りきれないくらい

大きなたましいを持っている子は

いつも肩で息をして

いつも少し疲れています

入りきれない

さびしさやかなしみは

背中に乗っていて

決して逃げていってはくれません

手足はおぼつかなく

頼りなげで

うつむきかげんに耐えています

胸には風も吹いていて

あんなにもたたえられた水が

容赦なく揺さぶられ

今にもどっとあふれそうになって

目頭が赤く痛んでくるとき

愛して!

のどの奥が叫んでいるような気がして

思わずぎゅっと

抱きしめてしまうのです。

こらえていた大波にいっしょに襲われ

ふたりがひとりになってしまいそうな

そんな予感がしても……

それでもたましいを抱くことは

決してできない

今日は一日

この子を胸の中に入れておくことにしました

まるで私がそうされているかのように

焼けはじめた空が

焼け落ちるまで……

どうかそっとしておいてください