河口夏実

 河口夏実詩集『雪ひとひら、ひとひらが妹のように思える日よ』(2016書肆子午線)より

 

 

    かりがね

 

今年はじめての雪が降りだす

冷んやりとした家は

障子とガラスで出来ている

垣根にみえる花が、

紅のように赤い

上から下に落ちていく粉雪が積もる間を

小鳥が鳴くと起きてくる

妹は眠っており

まわりは眠っており

閉ざすと白い障子戸が

表の音を立てている

日々のほとりに咲く草花や、月のうさぎを

切り貼りし

かりがねの群れが形を変えて行く

それは、さざんかが

道に咲くころ

さざんかの花を散り敷いていくうちに

一晩の雪が

この国を造りだすところ

起きてきて

見てごらんよ

遠くの星が火を宿す

てのひらに降る新しい雪

金平糖が降ってくる

 

 

 

    晴れていく日

 

やっと

ふたりきりに

なれるのは

この駅を

汽車が

通り過ぎていく

感じだ

ホームの

ベンチに安らいでいた

日の温もりが

満開の花

を散らして

遠くから

山道を

歩いてくる人の

足もとを蓋い

いつかは

埋もれてしまう

君を誘いたいと

いつも

思っているのに

なかなか

伝える

ことができない

永い夕暮が

必ず

同じ汽車を

連れてきて

僕らはしばらく

向かいあって

いるのだ

けれども

彼方の空が

余りに

高く

青く

 

ざわめいて

 

蝶が

舞う

 

まるで

 

離れ離れに

なって

いく

みたいに

速度をあげて

落下する

 

花々の、僕らは

 

やがて滞る

それぞれの

夢に

つい

見とれてしまって

愛しあう

日が

置き去りにされて

いく

道の途中に

 

立ち尽くしていた